インフルエンザ検査について考える
今年もインフルエンザが流行ってきた。学校から「インフルエンザ検査をするように」と言われたといって受診する人もいる。確かにこの流行下では、インフルエンザにかかっているのかどうかがとても気になることだろうと思う。しかし、そのたびに思う、検査はそんなに万能じゃないんですよと。あらためて、検査の限界についてちょっと書いてみる。

どんな検査でもそうだが、検査の結果だけで病気の有り無しが100%わかるわけではない。疾患を持つ人でも検査では陰性に出る場合があるし、疾患を持たないのに検査では陽性に出る人がいる。

感度 a/a+c x100
特異度 d/b+d x100
陽性的中率 a/a+b x100
陰性的中率 d/c+d x100
インフルエンザにかかっている人でも、検査では陽性に出たり、陰性に出たりする。インフルエンザにかかっている人の中で、陽性に出る人の割合を「感度」(上の表の a/a+c ×100)と言う。また、インフルエンザではない人の中で、陰性に出る人の割合を「特異度」(上の表のd/b+d ×100)という。
例えば、今うちのクリニックで使っている検査キットは、感度93.8%、特異度98.1%であることがわかっている。つまりインフルエンザになっている人1,000人を検査したら、938人は陽性になるが、62人は陰性に出てしまう。逆に、インフルエンザではない人1,000人を検査したら、981人は陰性だが、19人は陽性になってしまうということだ。
感度93.8%というのは、かなりいい方に見える。けれども、外来には、事前にインフルエンザかどうかがわかっていない人がくるので、ベイズの定理という確率の公式が適用される。以下に少し詳しく解説するが、外来でインフルエンザ検査陽性に出た人をインフルエンザと診断できる確率(これを陽性的中率という)は、地域の有病率に左右され、次の式であらわされる。陽性的中率=感度×有病率/{感度×有病率+(1-特異度)(1-有病率)}×100。(上の表でいえば、a/a+b ×100)
例えば、地域である程度インフルエンザが流行っているとする。わかりやすくするために地域の人の集団10,000人を考える(下の図)。地域の有病率を10%と見積もると、10,000人中1,000人がインフルエンザ(真陽性者)で、9,000人が非インフルエンザ(真陰性者)と考えられる。実際にインフルエンザである人1,000人中検査でインフルエンザ陽性になるのは、1,000×0.938=938人(真陽性検査A)。一方インフルエンザではない人9,000人中インフルエンザ陽性になるのが9,000×(1ー0.981)=171人(偽陽性検査B)。検査で陽性だった人が実際にインフルエンザである確率(陽性的中率)は、インフルエンザ検査で陽性になった人(真陽性検査+偽陽性検査)の中の真の陽性者(真陽性検査)の割合、A/(A+B)×100で計算できる。これは、938/(938+171)×100=84.5%、8割5分の確率にしかならないのだ。

地域の有病率が上がれば、この数値は上がっていく。有病率が30%(流行のピーク)なら、陽性的中率は 95.4%。これならかなり信頼度は高い。一方有病率が下がれば、この数値はもっと下がって行く。有病率が0.1%(ほとんど流行していないとき)なら、陽性的中率は33.2%にしかならない。3人に1人しか的中しないのだ。
逆に、検査で陰性だった人を本当にインフルエンザでないと診断できるのはどれくらいの確率(陰性的中率)であろうか?これは、ベイズの定理によれば、陰性的中率=(1-感度)×有病率/{(1-感度)×有病率+特異度(1-有病率)}×100となる。(上の表でいえば、陰性的中率=d/c+d ×100)
これを計算すると、有病率0.1%の時、陰性的中率99.9%。有病率10%の時、陰性的中率99.3%。有病率30%の時、陰性的中率97.3%となる。流行っていないときは、検査通り否定してもいいが、流行のピーク時には、少し慎重になるべきだということだ。たとえば、家族やごく身近にインフルエンザの人がいて、2,3日おいて高熱が出ていれば検査で陰性が出ても、インフルエンザと診断する。なので、検査しないでも状況だけでインフルエンザと診断するのはごく普通にあることだ。
これだけでも、インフルエンザ検査が100%でないことがわかってもらえると思う。医者は、インフルエンザの検査結果だけでインフルエンザと診断しているわけではない。検査結果を参考にしながら、地域の流行状況、患者さんの年齢、症状(重症感、症状の変化)などを参考に全体的な状況からインフルエンザであるのかどうかを診断している。
だから、地域の方々(学校の先生、幼稚園・保育園の先生)にお願い。安易に「インフルエンザ検査をして来なさい」と言わないで欲しい(検査だけではわからないのだから)。せめて、「インフルエンザかどうか診察(診断)をしてもらうように」と言って欲しい~外来でいろいろ頭をめぐらせて考えつつ、奮闘している医師に敬意を表して。

どんな検査でもそうだが、検査の結果だけで病気の有り無しが100%わかるわけではない。疾患を持つ人でも検査では陰性に出る場合があるし、疾患を持たないのに検査では陽性に出る人がいる。

感度 a/a+c x100
特異度 d/b+d x100
陽性的中率 a/a+b x100
陰性的中率 d/c+d x100
インフルエンザにかかっている人でも、検査では陽性に出たり、陰性に出たりする。インフルエンザにかかっている人の中で、陽性に出る人の割合を「感度」(上の表の a/a+c ×100)と言う。また、インフルエンザではない人の中で、陰性に出る人の割合を「特異度」(上の表のd/b+d ×100)という。
例えば、今うちのクリニックで使っている検査キットは、感度93.8%、特異度98.1%であることがわかっている。つまりインフルエンザになっている人1,000人を検査したら、938人は陽性になるが、62人は陰性に出てしまう。逆に、インフルエンザではない人1,000人を検査したら、981人は陰性だが、19人は陽性になってしまうということだ。
感度93.8%というのは、かなりいい方に見える。けれども、外来には、事前にインフルエンザかどうかがわかっていない人がくるので、ベイズの定理という確率の公式が適用される。以下に少し詳しく解説するが、外来でインフルエンザ検査陽性に出た人をインフルエンザと診断できる確率(これを陽性的中率という)は、地域の有病率に左右され、次の式であらわされる。陽性的中率=感度×有病率/{感度×有病率+(1-特異度)(1-有病率)}×100。(上の表でいえば、a/a+b ×100)
例えば、地域である程度インフルエンザが流行っているとする。わかりやすくするために地域の人の集団10,000人を考える(下の図)。地域の有病率を10%と見積もると、10,000人中1,000人がインフルエンザ(真陽性者)で、9,000人が非インフルエンザ(真陰性者)と考えられる。実際にインフルエンザである人1,000人中検査でインフルエンザ陽性になるのは、1,000×0.938=938人(真陽性検査A)。一方インフルエンザではない人9,000人中インフルエンザ陽性になるのが9,000×(1ー0.981)=171人(偽陽性検査B)。検査で陽性だった人が実際にインフルエンザである確率(陽性的中率)は、インフルエンザ検査で陽性になった人(真陽性検査+偽陽性検査)の中の真の陽性者(真陽性検査)の割合、A/(A+B)×100で計算できる。これは、938/(938+171)×100=84.5%、8割5分の確率にしかならないのだ。

地域の有病率が上がれば、この数値は上がっていく。有病率が30%(流行のピーク)なら、陽性的中率は 95.4%。これならかなり信頼度は高い。一方有病率が下がれば、この数値はもっと下がって行く。有病率が0.1%(ほとんど流行していないとき)なら、陽性的中率は33.2%にしかならない。3人に1人しか的中しないのだ。
逆に、検査で陰性だった人を本当にインフルエンザでないと診断できるのはどれくらいの確率(陰性的中率)であろうか?これは、ベイズの定理によれば、陰性的中率=(1-感度)×有病率/{(1-感度)×有病率+特異度(1-有病率)}×100となる。(上の表でいえば、陰性的中率=d/c+d ×100)
これを計算すると、有病率0.1%の時、陰性的中率99.9%。有病率10%の時、陰性的中率99.3%。有病率30%の時、陰性的中率97.3%となる。流行っていないときは、検査通り否定してもいいが、流行のピーク時には、少し慎重になるべきだということだ。たとえば、家族やごく身近にインフルエンザの人がいて、2,3日おいて高熱が出ていれば検査で陰性が出ても、インフルエンザと診断する。なので、検査しないでも状況だけでインフルエンザと診断するのはごく普通にあることだ。
これだけでも、インフルエンザ検査が100%でないことがわかってもらえると思う。医者は、インフルエンザの検査結果だけでインフルエンザと診断しているわけではない。検査結果を参考にしながら、地域の流行状況、患者さんの年齢、症状(重症感、症状の変化)などを参考に全体的な状況からインフルエンザであるのかどうかを診断している。
だから、地域の方々(学校の先生、幼稚園・保育園の先生)にお願い。安易に「インフルエンザ検査をして来なさい」と言わないで欲しい(検査だけではわからないのだから)。せめて、「インフルエンザかどうか診察(診断)をしてもらうように」と言って欲しい~外来でいろいろ頭をめぐらせて考えつつ、奮闘している医師に敬意を表して。
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